五月五日の奇跡

  福岡の大学に行っている陸君がアトリエに会いに来るというので、久々にアトリエエプロンをして玄関を開けていた。また入院して手術の予定になったことを知らなかった彼は、神妙な顔をしながらも大学での話を報告してくれた。

　そうしていたら、以前新聞記者で私のエッセイの担当だった本郷さんが訪ねて来られた。病気のことを打ち明けた米子のＳ記者から連絡されて心配してかけつけてこられたという。本人が玄関に出たことに驚かれた様子だったけれど、「アトリエをずっと閉めているけど子ども達が待っているから頑張る。」と言うと、陸君が「僕もまっています。」 と言ってくれて3人で座ってお茶をしながら、いろいろな話もできた。

　山のようなこどもたちからの手紙を見せて、おとなしい子でも「ここに来るとたのしく絵がかけます。」などと書いてあり、この度初めてみんなの気持ちがわかった話をした。みんないつまでも待っていてくれるから、もう待たすわけにはいかないことも。本郷さんは記者退職後もアトリエのある日に顔を出して下さって、ご自分の畑のスイカやお菓子をさりげなく持ってきて下さっていたから子ども達は普段着のサンタさんだと思ったりしている。お逢いしたかったのでうれしかった。

　いつものようにスッと来てサッと帰られたあと、すれちがうように一台の車。
アトリエの生徒で、郡部の小学生の野球兄弟のゆうせい君とショウエイ君が、応援の手紙をアトリエポストに入れに来たのだった。「先生がおるぞ!!」とばかりに、随分背の伸びたふたりとの再会。ブログを読んでいて下さったご両親ともお話が出来て、陸君と写真を撮ろうとしていると、向こうのほうから高三のしずかちゃんも駆けつけて来てくれた。
☆三ヶ月ぶりのアトリエ玄関記念写真。待ち合わせのない偶然。


　陸君が来るから何人かに連絡したけど、連休でみんな留守の中。ようやくしずかちゃんに連絡がついて,お母さんのアヤドンと逢いに来てくれたのだ。そのあと、陸君としずかちゃんとはしみじみと懐かしいカルピスでいろいろなことを祈って乾杯!。陸君は今日の夜行バスで福岡に帰る。きどらず、てらわず自然体の大学生になっていた。なによりも長い間誰にも逢えず、子ども達と会いたかった私が元気になった。
「先生、あきらめたらだめですよ。」 受験のとき伝えた言葉をそのまま返された。

　個展や教室を長いことやってこれたのは、こうして訪ねて来る子ども達に元気そうな明るいトトロ先生の姿をみせてお互いのパワーを保っていたからなんだな、とあらためて気がついた。

　今日手渡された少年達の手紙には、自分の名前の肩書きに「弟子」と書いてあった。そうか師匠は復活しなければならないのだね。待ち合わせでもしたような１時間半の奇跡。こどもの日に神様の下さった不思議な贈り物に心から感謝した。

　入院は９日。手術は１２日。なんだか大丈夫の気がしてきた。子ども達と全国の皆さん応援ありがとうございます。しっかりと　行って参ります。