トトロの理由
今年のように暑くて日照り続きだったむかしむかしの因幡の里で、三日三晩天に向かって傘を振って雨乞い踊りをして,命を賭して田畑に雨を降らせた男の言い伝えがある。それをもとにした盆の踊りが「因幡のしゃんしゃん傘踊り」だ。
シャンシャンというのは傘につけた鈴の音。4年生以上の子ども達と麗しい乙女達とゴッツイ男性達が繰り出して市中を踊り歩く。
「見に行くからな。」と言ってしまったボスは、アトリエの子ども達を一人ずつ探してカメラマンを果たして来た。 (子供会のリーダーとして ひたむきに傘をシャンシャンとまわすアトリエのみおちゃん)
(それぞれの職場の連が揃いの浴衣で舞い踊る)
仏様たちが「また来年!」と天へもどられる15日は、市内の千代川(せんだいがわ)河川敷広場での花火大会。
(**撮影…・ボス)
ささやかで鳥取らしいしっとりとしたお盆の日々が終わった。家とアトリエ事務所を行きつ戻りつ、家の仏様たちは蓮の葉に乗せてロウソクを立て、線香を焚いて、家の前の川でお別れをする。振り向けばトトロの森。
私がトトロになった歴史は長く、25年前に映画が封切られた頃、入院中だった私は「さんぽ♪」という挿入歌をラジオで聴いて,足の不自由な自分のテーマソングにした。それから本でトトロ本体を見て自分そっくりだと思い、小児科の子ども達にトトロを描いて渡しつづけた。
時を経てホンモノの絵描きになり、アトリエを始めた頃にも生徒達はみんなトトロが好きだったので、「先生はホントはトトロだよ。」と言うと信じてくれた。体型と雰囲気とエプロンがトトロだったからね。
その中でも、拓君と亮君の兄弟はどんな絵の中にもこっそりとトトロを描いていた。お母さんを早くに亡くし,お父さんが懸命に送り迎えをしてくれて、ながいことアトリエに来ていたけれど、兄の拓君が中2の頃いろいろと忙しくなり、二人ともアトリエを去った。「なんで?僕まで?」と泣いた弟の亮君。彼らは年子でそののちのことは、拓君が新潟の大学から手紙をくれて、二人ともそれぞれの夢に向かっていることを知った。
新潟でジブリ原画の展示があり、わざわざトトロの絵ハガキを送ってくれたのだった。新潟は寒かろうとこちらからは、帽子やマフラーや手袋を送った。なにしろアトリエは子だくさんなので、全国に散った卒業生達ひとりひとりにまで気がまわらず、訪ねてくれた時だけ「お互いに元気で生きていよう。」と約束の握手をしていた。
「トトロは300歳くらいだし、おばけだから死なないんですよ。」いつもそう言って子ども達はアトリエの続くことを願ってくれた。
その兄弟の弟の亮君が、盆の直前に亡くなった。学生生活を送っていた埼玉のアパートで突然の心臓発作が命を奪ったのだ。いろいろな経緯があり、大学のゼミからの欠席の連絡を受け、東京で春から就職していた兄の拓君が訪ねて行って第一発見者となった。鳥取での就職先も決まっていた21歳の若い旅立ちだった。なすすべのない私はトトロになった。
「心がきれいな子は選ばれて猫バスと銀河鉄道に乗せられるときがあるんだよ。」拓君は「そうかも。」と言った。その証拠に先生の弟も20歳で乗って行ったんだよ。これは説得力があった。「なんで?と頭にくるけどね。」と言うと、拓君は「そうです。」と少し笑った。
「これから先は拓君の中に亮君もいるから心強く生きて行くのよ・・。」「先生も?」と聞くから「そうに決まってるし。百枚もの個展を一人で毎年できるわけないし、ボスたちのコンサートだって・・。」弟がちからを貸しているに決まってる、と言うと、「そうですよね。」と声が明るくなった。
お父さんにも同じ話をした。まだ食事がのどを通らないらしく、「亮君はみんなが食べないとお腹がすくのよ。」と言うと、少し食べたとのこと。
科学的には無茶苦茶だけど私ではなくトトロっぽいなぁ・・と思いつつ必死だった。私もこっそり泣きすぎて目のふちが切れた。みんな号泣していると言うので、雨乞いかい・・とつっこんだ。
アトリエの子の死ははじめてのこと。私とみんなの合い言葉を拓君が言った。「生きていよう!!」
職業トトロ。その理由がはじめてわかった。
今年のお盆が終わった。少しだけ夜が涼しくなった。
合掌
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鈴がしゃんしゃん鳴るお祭り、素敵ですね。
鈴の音は神様を呼ぶだけではなく、魂を送り、
生きて行く人達へも力をそっと与えてくれている
のかもしれませんね。
トトロさんも鈴の音のようです。
起きてしまったことは、とても悲しいことだけれど、
拓君はトトロさんのお話に力をもらったと思います。
食の進まないお父さんだって、きっと大丈夫です。
そして、星になった亮君も、きっと笑顔でみんなを
見守ってくれるでしょう。
職業:トトロ。大変なお仕事だと思います。
でもトトロさんにしか出来ないお仕事でもあります。
私もトトロさんに出会えて、たくさん力を頂きました。
ありがとうございます
投稿: くまきろり | 2013年8月16日 (金) 11時16分
くまきろり様
ありがとうございます。
自分の行動がこれでいいのかどうか と やってからも最中も考えてしまうので、くまきろさんのコメントはとてもありがたいです。もちろんトトロはやらずに悩むようなことはなくて、すぐに行動しますから、リアルタイムで考え悩みの中にいながら 勇気を出しているわけで、そんなときの前向きコメントはホッとします。
これからもトトロを磨いていこうと思いますよ。
わたしも くまきろさんに力をいただいています。m(_ _)m
投稿: アトリエトトロ | 2013年8月16日 (金) 17時03分
しゃんしゃん傘踊りをするみおちゃん、いいお顔ですね

雨乞い踊りに参加したくなりました。
ボスさん撮影の花火とてもキレイです
21歳という若さで猫バスにのった亮君…
アトリエへ来ていた小学生時代からのお話をきき、涙がでました。
私の従兄も19歳で猫バスにのりました。その時13歳だった私は
訳が分からず心の中が整理できずにいました。
亮君はお兄さんやお父さんの心の中にいるのですね。
トトロ先生に出会い『生きている』を教えてもらいました。
先生は本物のトトロさん。出会えたことに感謝します。
合掌
投稿: ずっか | 2013年8月17日 (土) 00時26分
ずっか様
ありがとうございます。
哀しいことがおこってしまいましたが、アトリエで二人の写真をさがしているうちに 15年以上も前に始めた頃と今のアトリエの両方がリンクして、もっともっと 子ども達の思い出づくりを大切にしようと思ったトトロでした。人は楽しかった出来事を胸に,哀しいことも踏み越えて生きていけるような気がしました。喜怒哀楽をしっかり表現していた亮君のふざけた写真が何枚も出て来て、楽しかったんだな と胸が詰まります。いつか再会したら「ありがとね。」と言いたいです。トトロの夏を頑張ります!
投稿: アトリエトトロ | 2013年8月17日 (土) 01時01分
日本のとか東北のとか「〇大祭り」などは、TVでも良く紹介していますが、この日本にもまだ知らないお祭りが い~っ~ぱいあるんですねぇφ(・ω・ )メモメモ
それにしても、みおちゃんの真剣な表情が素敵です(^^)/
投稿: エノッチ | 2013年8月17日 (土) 10時09分
エノッチさま

ありがとうございます。
この一枚は 私も感動して選ばせてもらいました。
子ども達は、人目を意識せずひたむきに踊るのでとてもいい表情になりますよね。全国各地の猛暑の中を たくさんの子ども達はこうしていろいろな盆の踊りをおどったのでしょうね。
無心に踊る表情はいろいろなことを吹き飛ばしてくれます。
投稿: アトリエトトロ | 2013年8月17日 (土) 22時20分
ただただ、泣けました。
若い命が、失われることの理不尽さ。
本当に願わくば、生きるということの大切さを、大事に大事にしていきたいと思いました。
ちゃんとしたことは言えないけど、身近な方々に問うていきます。
ありがとうございました。
投稿: OTキキ | 2013年10月22日 (火) 09時58分
OTキキさま
コメントありがとうございます。
先月の末 彼の四十九日が済み、お父様がアトリエにとおやつをたくさんお届け下さいました。癒えることはなく、さらに哀しい毎日ということでおかけする言葉はありませんが、残された兄ちゃんに私も添いつつやっていこうと思います。
大事に生きて行きたいです。どうかお元気で。
投稿: アトリエトトロ | 2013年10月22日 (火) 16時21分