絵のはなし
10年ほど前に個展に出したこの絵を、もう一度描いて欲しいと持ち主の方に頼まれたのは昨年末だった。
ご自宅の離れの子ども部屋に飾って、当時受験生だった息子さん達と末っ子の娘さんに人生を進んで欲しいという父の気持ちだったらしい。額装すると畳半分ほどの大作だった。
ところが、昨年末火災に遭われて、絵のある離れは全焼。「家具は買い換えても、絵だけは二度と同じものはないということに初めて気づきました。」と訪ねて来られた。
「わかりました。同じ絵を描いてみましょう。」私は運良く絵ハガキにしていた小さな元の絵を頼りに、10年前はじめて銀河鉄道らしきものを絵の中に入れたときの気持ちを思い出して、1月の個展に間に合うように頑張った。ちょっと元の絵と違うような気がしたけれど、なんとか完成して個展にもう一度展示してからお渡ししようとしたとき、「実はもうひとつ頼みがあるのですが・・。」と。
なんとその子ども部屋にいて勉強していた次男の方が5月に結婚されるとのこと。だから絵の中の船にパートナーを描き入れて,出来れば天使も・・・と。
タイトルは「夢幻の旅」。元の作品は少年が一人だった。
(☆写真は全てクリックで大きくなります。)
私はこの作品に足りなかったのは10年という歳月だったということに気がついた。そして「わかりました。おめでとうございます。」と心をこめてまた制作し、額も白いものに替えて、先日ようやく手渡すことが出来た。写真も見ずに彼女の姿を描いたのに、やっぱりそっくりだと言われてうれしかった。天使はこれから生まれるかも知れない子ども達。どんな人にも天使がお伴したり先導したりしていると思っているから、つい描いてしまう。童たちはみんな天使だ。あとにも先にも、こんな風に消失した絵をまた描かせてもらって、さらに物語りを描き足すなんて一度きりのことだろう、と思った。
作者の自分が生きているからもう一度描くことが出来たことが素直にうれしかった。
さらに今月は、2年に一度の鳥取市の「日本のふるさと音楽祭」がある。そのポスター・チラシも10年以上描かせていただいている大切な仕事で、5月締め切りの制作が山積みだった。(完成した「日本のふるさと音楽祭」のポスター。鳥取市生まれの唱歌「ふるさと」を作曲した岡野貞一を顕彰した音楽祭で今回のゲストは倍賞千恵子さん)
今描いている6月の市展出品作品も、全部アトリエの中に描きかけを置いて並行して描いていた。子ども達はその進み具合をチェックして、「せんせい、これは岩手のおまつりか?」などと見入っている。「あれは出来たの?」とか「だいぶよくなったねー。」などと、小さい学芸員のように見てくれているからありがたい。心なしか子ども達の作品までエネルギーに満ちて完成度の高いものになっている。
(☆6年生のはるかちゃんとトモ子ちゃんの服装が、馬ッコの装束の色と似ていました。)
「あなた達はみんな画家だから、話をしながら絵が浮かぶでしょう。それを伝えるために言葉があるんだよ。」というと、「わかる。」とのこと。「心の感受性を絵や言葉であらわして,人にお届けすることの出来る人が、画家や作家というアーチストで、子ども達はみんなそれが出来ると‥先生は思ってるんだよ。」と事あるごとに話している。
美しいものや面白いものをキャッチしたり、空想出来るちからこそ生きる力にも繋がっていく。
「これわかりますか?」と一生懸命に色を塗って3年生のこうた君が一枚の絵を完成させた。広い青色の中に小さな○。「わかった。カッパが浮いてきたのね。水の中に家族がいるんでしょ。」と言うと、「スゲ−! せんせい,100点!!」とほめてくれた。彼は絵を描きながらずーっとカッパの話をしてたからね。
子ども達の話をひとりずつ全部聞いていると心の世界が見えてくる。お互いがファンであり、優しくて正直な厳しさがアトリエをアート空間にしてくれている。
今回の市展作品は盛岡の6月の祭り「チャグチャグ馬コ」。完成まであと少し。「せんせい、ガンバレ!」の寄せ書きカードが、こっそりとポストの中にはいっていた。
こんにちは




またまた素敵なお話に涙です。。。
夢幻の旅…素晴らしい作品ですね
黄色いお花も、天使ちゃんも、舟にのってる二人も…
見ているだけで幸せな気持ちになります。
こうしてブログから幸せをいただいていることに感謝しています
トトロ先生ありがとう!
子供はみんな画家!素敵です
私も画家になれますように…(*ノv`)
投稿: ずっか | 2013年5月27日 (月) 11時15分
「夢幻の旅」も音楽祭のポスターも、夢いっぱいの作品ですねぇ(^^)/
投稿: エノッチ | 2013年5月27日 (月) 11時59分
素敵なお話ありがとうございます。
10年を経て「夢幻の旅」は、より深いものに
完成したのですね。
子どもたちの素直な感性。
なにかに縛られて、いま自分に一番欠けている
ように感じました。
先生、お忙しそうですね。お身体に気をつけて
お過ごしくださいね
投稿: くまきろり | 2013年5月27日 (月) 14時05分
ずっか様
いつもお立ち寄り下さってありがとうございます。
子ども達も、その空想力を授けているお母さん達もみんなアーチストです。表現する力なんて学校で習うものでもなく。お母さんや家族が面白くて愛いっぱいならば そのように育つのだな・・と小さいアーチスト達から教わっています。これから暑くなりますが また ずっかママの手作りで たのしく元気にお過ごし下さいね。
投稿: アトリエトトロ | 2013年5月27日 (月) 15時32分
エノッチ さま

ありがとうございます。
大体 こんな感じの童画を描いています。
とりたてて絵の勉強をしたことがないので 時々いろんな手法を試したりして・・。なにを隠そう 夢幻の旅 の黄色は「ウコン」を使ったのでした。子ども達にも方法は決めずに 考えよう と 試しています。
画材は「夢」です。
投稿: アトリエトトロ | 2013年5月27日 (月) 15時38分
くまきろり 様
いつもありがとうございます。
時間や身体は自由にならなくても いつも魂は開放していようと思うトトロです。ていさい・照れ・いいわけ などがあると 絵が浮かばなくなるし 子ども達と通じ合わなくなっちゃうから。
くまきろさんの詩を読ませていただくと 元気になりますよ。
素直な感覚だと思います。
これからも 行き来して 魂を休ませながらアートしましょう。(*^-^)
投稿: アトリエトトロ | 2013年5月27日 (月) 15時49分
ありがとうございます
これからもよろしくお願いします。
投稿: くまきろり | 2013年5月27日 (月) 19時03分
お部屋でトトロ先生の絵を見ながら成長していったお子さん達は、きっと心穏やかな優しい方に成長されたことでしょう。
だからこそご両親はもう一枚を依頼されたんだと思います。
わたしも「夢幻の旅」を見て、なんだか優しい気分になりました。
こうた君のお話、思わず頬が緩みました。
こうた君はきっと、自分が夢中でカッパのお話をしていてことに気づいてないんでしょうね。絵の中に入り込んでカッパの世界で遊んでいたんでしょうか?
そんな場があるって素敵なことですね。
投稿: りんふう | 2013年5月27日 (月) 22時26分
りんふう 様

ありがとうございます。自分でも大好きな絵でしたから蘇らせる事が出来てよかったです。子ども部屋で育った3人は今は沖縄や東京など 本当に夢幻の旅の道の上で、この度ご結婚された次男の方が ご両親と暮らすのだそうです。描き入れたお嫁さんも絵を気に入ってすぐに飾って下さったとか。とてもいいご家族なんです。
こうた君には少し言語に障害があり、つぶやく言葉を心で聞かなければわかりません。でもアトリエのみんなとトトロには何故かわかるのでした。
この日の彼は自分の物語りをみんなにわかってもらえて至福の表情でした。また次もカッパの絵を描くそうですよ。
投稿: アトリエトトロ | 2013年5月27日 (月) 22時41分
この絵ハガキもってます。10年の間に絵が変わっていくお話。とってもステキですね。失った悲しさを、希望に満ちあふれた未来へと変えてくれるお話。
不幸に会った時に、それを良い方向に変えていくのもいかないのも、そのあとの自分の行動次第なんだなと思いました。若い2人に幸あれ。
こうた君、わかってもらえて本当に良かった。子どものころ、絵を描くのは苦手でした。結果だけが問われて、どうしてこれを描いたのか、どうしてこういう色にしたのか、体の中にあったワクワクするようなアイデアが、下手くそな自分の絵に裏切られてしまうような気がして。大人は結果しか評価してくれなかったなぁと思いだしました。その絵にこもったいっぱいの物語や冒険や気持ちを、わかってもらえる場があるって、幸せなことだろうなと思います。
投稿: アヤドン | 2013年5月28日 (火) 10時27分
アヤドンさま
梅雨いりですね。
星の王子様のサン・テグジュペリの自伝が国語の教科書にありましたよね。帽子の話です。うわばみを飲み込んだヘビを描いたのに、大人はみんな帽子だろ という あれです。アトリエはアーチストだらけなので、薄い大人にはわからない 深い絵ばかり。トトロは不思議にわかってしまうから やっぱり画家なのかな・・とそんな時に思います。絵は心のカガミなのでみんな生きていて,何かを語ります。あの絵元の絵よりもパワーアップして生き返りました。絵ハガキは貴重なものになりましたからお宝ですよ(v^ー゜)ヤッタネ!!
投稿: アトリエトトロ | 2013年5月28日 (火) 15時56分