わらべ館の一日
鳥取には、昔の煉瓦創りの県立図書館だったレトロな建物をそのままの形に復元拡張し、レトロおもちゃの展示や古い小学校の教室を復元させた「童謡唱歌の館」も併設している「わらべ館」がある。あの「ふるさと」の作曲家岡野貞一をはじめとする明治の小学唱歌をつくった郷土の先人達を展示したりもしていて、私はこの建物が好きだ。
その中のイベントホールでついに「ピアノと絵本の音楽会」が実現した。市の計画ではあったが、途中からいろいろな関わりの中で見るに見かねてうちの「ドリームプロジェクト」が見返りも求めず全面的に協力した。
リハの前日一回だけで、東京から帰郷した作曲/演奏のピアニストとの通しの時、まるでアトリエの生徒に駄目出しをするように私は厳しかった。「震災被害の避難移住の皆さまに音楽家として・・・・」などと語る若い彼女に、「うれしくない言葉です。もっと正直に!!」と何度も演奏以外のところへのやり直しと考え直しを頼んだ。家族も離散したり、それぞれ別々のルートで鳥取までいらして暮らすことを余儀なくされる方々と、チケットまで協力購入された鳥取の市民の皆さんへ、何をもって感動の時間を共有していただけるかを若い音楽家に心から探してほしかった。
その様子を、久々に帰郷した我が子に寄り添って見に来られていた彼女のお母さんが立ち上がって声をかけられた。「かおる先生の言われる通りよ!!」。
末っ子の彼女は「はいっ」と涙ぐみ、徹夜の夜行バスで青ざめた表情のまま何度も演奏以外の部分をやり直し、ついに未完のまま当日を迎えた。
楽屋で「今日の時間を、お客さま全部とお母さんの心まで温めて届けるのよ。明日から生きて行く元気を演奏でお届けするんだよ。」としっかりハグした。前の晩、ボスはリハのとき聞いた福島の三春滝桜と子ども達の上空に架かる虹など多くの東北の風景を鳥取の風景とかぶらせて編集しなおして、舞台スクリーンの効果映像を制作した。
実際にうかがった避難生活の現状は思いのほか厳しいものだったから。
はたして当日、いつものように天気予報をくつがえして雪はやみ、狭いホールが立ち見御礼。子ども達は最前列に急きょ敷物を出してかぶりつき。私のマイクスタンドのすぐそこに鳥取と
東北の子供等がワクワクの顔で見上げていた。私の東北弁満開の語り口と彼女のオリジナル曲とボスが心を尽くした東北の春の風景が、お客さまに届いた。スポットの中で語りながら客席に目を凝らすと、笑いながら涙で光る皆さんの表情がしっかり見えた。子ども達は笑ったり歌ったりしながら幼い手で一生懸命拍手して、「あっネズミ君の本だべ!」 と聞こえたとき、心からうれしかった。
ピアノの彼女に一度だけトークを振ると、「言葉には尽くせませんので、自分に出来るただひとつの音楽の気持ちを聴いていただけたらとてもありがたいです。」というひと言を声を詰まらせて語ってくれた。見事な演奏だった。小さなホールでも大きな野外でも満員の力から生まれるエネルギーは温かくて丸くてでっかいもんだなぁ・・・と思った。
さあ私もまたがんばっぺ。
(たなかかおるの、ほのぼのトーク)
朝日新聞デジタル版のコンサート記事はこちら
« ドキドキわくわく | トップページ | 雨ニモ負ケズ »
「アトリエ日記」カテゴリの記事
コメント
« ドキドキわくわく | トップページ | 雨ニモ負ケズ »
とても温かなコンサートでした。
先生のトークも面白くて(笑)鳥取弁と東北弁とのコラボを1人でされているようでした。どこの言葉も関係なく心に染みるものだと感じました。宮澤賢治の詩にはほろりときてしまいました。
とても可愛らしいピアニストの香奈枝さんをピアノをしている娘は憧れの眼差しでみていました。彼女の言葉通り、想いは音で伝わってきましたよ。
素敵な時間をありがとうございました。
避難移住の方々のひと時の癒しの空間になったことと思います。
皆で頑張っぺ!!
投稿: かっぱのおやこ | 2013年2月18日 (月) 09時35分
コンサート、良かったです
帰り際、年配の女性の方が「なんだか心が洗われたなぁ・・・・」と話をされているのを聞いて、
うちのトットが「かおる先生、洗濯機みたいだな」と申しておりました
東北出身ではないし、おかれている立場は違うけど、同じ県外から来たものとして、エールをいただきました
さぁ、心も洗われたことだし、今日からまた頑張っぺ
投稿: キャサりん | 2013年2月18日 (月) 14時12分
かっぱの親子さま
いゃ~~~~、久しぶりの舞台仕事でしたが、ちっぽけな人間の中の、
宇宙ほど広い心のことをいつかお話できたら・・とおもっていたので、賢治先生のお力を借りて実現できたから いがったっぺ。
やっぱり みんなして 生きることに元気を出そうと思うトトロです。
これからも アトリエで みなさんに助けていただきながら子ども達とのいい毎日を重ねたいですね。ありがとうございました。
投稿: アトリエトトロ | 2013年2月18日 (月) 16時26分
キャサりん様
トトロ型洗濯機 いいかも。
トットちゃんとの2ショットが舞台からチラッと見えたとき、とてもうれしくてがんばれましたよ。星空のようにアトリエの仲間たちの顔があちこちから「せんせーい がんばれー」とピカピカ光って見えました。
そっか‥洗濯機ね。なるほどね。でもいつも私の心を洗ってくださるのは子ども達なんですよ。全自動じゃないから 修理しながら 大事に使いましょうね。あっ!!!
ありがとうございました。
投稿: アトリエトトロ | 2013年2月18日 (月) 17時02分
行ってきました。 はじめて会う人たちと、温かい空気を作りだそうと奮闘するかおる先生の姿にじーんとしました。ピアノの香奈枝さんも、とってもかわいい方で、もう一生懸命で、お二人の気持ちがきっと伝わったと思います。香奈枝さんは、まったく鳥取の女の子の良さを凝縮したような女性で、その素直な人柄そのもののナチュラルでほっとさせてくれる曲を作られるなと思いました。応援するべ。ほんとに良いコラボでしたね。寒さも忘れるあったかコンサートでした。ありがとうございました。
投稿: アヤドン | 2013年2月18日 (月) 17時15分
アヤドンさま あー終わった終わった。超満員の大拍手が気持ちを支えて下さって、いいコラボが出来ました。どこに東北の方が混ざっておられるかわからなかったのですが、かぶりつきの子ども達のなかに「んだ」と言っている子がいて感動しました。たくさんの応援ありがとうございました。 東北弁たくさん話せてふるさとのようでした。 また、いろいろと挑戦してみます。 やるべ! みんなで楽しんで生きてみるべ!ぴよ
投稿: アトリエトトロ | 2013年2月18日 (月) 17時20分
トトロ先生の暖かいお声を思い出しながら読みました。o(*^▽^*)o
あ~~!ますます見に行きたかったですぅ~!
どうして鳥取と長野はこんなに離れてるんでしょうねえ。(≧◇≦)
かぶりつきの子どもたちのかわいいこと。
物語にがっつりはいりこんでますね。^^
東北の方々に温かい春。。。。届きますように。
投稿: くまたろう | 2013年2月18日 (月) 21時05分
くまたろう様
ありがとうございました。
ほら、くまたろうさんから届けられた黄色いお花はステージの私のテーブルにしっかり置かせていただいてますよ。長野から、しかもブログフレンドのソウルメイトからの幸せの黄色いお花なんて ステキすぎです。どんなに心の力になったことでしょう。花も木も友達も種からていねいに育てるもんなんですね。信州もこの日は寒かったでしょうに こちらにまで温かなお気持ちを届けてくださったこと、私も見習います。
ほんのひとときではありましたが ポッとあたたかい風がふんわりと流れておりました。全国みんなで それぞれに 明るい春に向かって行くべヽ(´▽`)/
投稿: アトリエトトロ | 2013年2月18日 (月) 21時21分
写真からもメロディーが奏でます 優しい東北弁が奏でます
あったかな光りが包んでます
きっと終わった後みんなの 悲しみや不安、つらい思い、いろんな思いの詰まった
荷物の忘れ物が会場に沢山あったことでしょう。 幸せのおすそわけをブログから いただきました(*^o^*)
投稿: 奈緒美(naonaogo) | 2013年2月18日 (月) 23時38分
奈緒美(naonaogo)さま
ありがとうございます。前日の真夜中まであの世界からエールを送りつづけて下さいましたね。お会いしたこともないけれど、それはお花を下さった信州のくまたろうさんも同じです。とても不思議なご縁のことを、やっぱり私は信じています。目に見える世界の哀しみを、見えないけれどある心の力で癒せたら本望だと思っています。札幌はまだまだ雪祭りの厳寒ですが、だんだんに春の音がきこえます。いろんな お忘れ物は ハート柄の風呂敷に全部包んで持ち帰りました。あたらしい苗の栄養にします。
また、あの世界でお会いしましょう。
投稿: アトリエトトロ | 2013年2月18日 (月) 23時51分