マイ チェアー
人が心地良いのは、自分だけの居場所があるところだ。オシャレなカフェや人気のお店に入ってみても、初めてだったらなんとなくソワソワして落ち着かず、すぐに出て
しまうことがある。狭くてもお店の人と知り合いならばひと言ふたことで気が落ち着いてホッ
とすることもある。
子ども達は自分だけの椅子を決めている。そしていつもの顔ぶれがいてそれぞれが混じり合った空気感の中、ゆっくり時間が過ぎていく。
連休のため一週ずれた土曜日の後半クラスは間違えて来てしまった子が何人かと、休みそうになって私から電話して駆けつけた子がいた。病院の診察券みたいに予約カードを持たせているのに、親子共々確認せずに必ず変更をまちがえる「うっかりのんびり星人」が存在する。
その日、こともあろうにはるばる倉吉から来てしまったうっかり君がいた。簡単に戻れないから「描いて行けば?」と言うと、「帰る。」とガンコなA君。一緒に列車と徒歩の旅に付き合われていたお父さんも「入れてもらいんさい。」と促すのだけれど、アトリエに入ろうとしない。カードは前回つい道に落として、近所の人に届けられたという因縁つきだ。本人より先に届けられていたカードには、はっきりと次週の日にちが書いてあるのに、私は私で連絡確認を怠っていた。
今まで兄ちゃんと来ていたが4月から一人になったばかりのA君。次男にありがちなひょうきんっぽい生き方の裏に我慢のできるちからもある。半分笑ってあきらめかけたような表情は、自己主張を我慢しながら身についたものかもしれず、おとなからは誤解もされやすい。
「アトリエで絵が描きたくないのだったら、そんなに無理して来なくてもいいんじゃないの?」グズグズしているうちに生徒たちがどんどん来始めて、じれったくなった私はついに暴言を投げかけてしまった。
「アトリエには来たい! 絵も描きたい! 」。彼は笑わずに私を見て言った。わがままでもなく、ふざけもせずに意志を訴えた彼の姿を見たのは初めてだったかも知れない。私はその目を見ているうちにストンと理解出来て泣きたくなった。見れば彼も涙目だ。
「いつものみんなと、自分の席で描きたかったんだね。」
「はい。」
「いじわる言ってごめんね。」
「うん。」
おとうさんが「来週はついて来れないで。」とおっしゃて、「ひとりで来る。」と答えていた。手をブンブン振って帰って行った
。
「あーあ、失敗した ~~~」と言いながら夕方クラスのみんなに、おとなの了見でてっとり早くやっちゃおうと思って、自分の椅子で描きたい気持ちを大切にできなかったことを懺悔して告白した。
みんなは「う~ん、わかる。そうだでぇ~。」と言った。同じくA君のクラスで間違えて来ていた高校生のSちゃんは、スタッフとして参加しながら私の話を聞いてくれて「そんなにクラスの子と話さないのにそうだったんだ。
」と感心していた。
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4月からずっとアトリエの人事異動と新メンバーの仲間入りが続いていて、上手に自分の希望と思惑を話せない子ども達に一層の気づかいが必要となるところだ。せめておとなになるまでに、どうしたいのか、それは何故かくらいは話せるようになってもらおう。できれば、してもらって有り難いのかうれしいのかを伝えられたらいい人生が送れるだろう。わかり合おうとする心って愛だから。
今日の水曜日クラスは夏のような一日。アトリエ5月の風物詩「シャボン玉大会」の幕開けだ。小さい一年生たちが本気で遊んでいた。先輩たちもかつて笑って遊んだときのような歓声がいつまでもアトリエの外に飛んでいた。
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コメント
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緑の美しい日本列島。沖縄も40年が経ちました。毎日の仕事に少しくたびれたらここのブログにおじゃましています。どんな子でも受け入れて、ちからいっぱい抱きしめるかおる先生の言霊はジーンとします。気がつかずにごめんね、とあやまってもらった子の心にはどんなに綺麗な色の花が咲いたでしょう。政治家にあやまられても花は咲きませんが。
┐( ̄ヘ ̄)┌ フゥゥ~
投稿: 沖縄のトトロファン | 2012年5月18日 (金) 14時31分
沖縄のトトロファン様



ほんとうに 緑のきれいな5月です。エメラルドの沖縄の海も美しいことでしょうね。40年前 岩手国体がありました。私は吹奏楽団の行進でクラリネットを吹いていた高校生でした。最後に「沖縄県選手団」とアナウンスがあり、初めて「沖縄県」となった選手団が胸を張り涙を流して行進してきました。高校生たちも号泣して楽器の音が小さくなりドラムのリズムと割れんばかりの拍手だけになりました。時を経ても沖縄の太陽と住みずらい政治のひずみは変わらず、大変のことと思いますが またこのブログの指定席でくつろぎにいらして下さいね。私も精一杯やってみます。
投稿: アトリエトトロ | 2012年5月18日 (金) 15時48分
自分の椅子に座って絵を描いて、満足してまた学校に通う元気が満タンになるのでしょうね。「いい絵だね。」と言ってくれる先生のところで描く絵は本当にいい絵ばかりですね。いつか見たアトリエ生徒の展覧会でそう思いました。おとなもたまには「大丈夫」と言ってもらいたいから、かおる先生はお医者さんみたいですね。(*v.v)。
投稿: すずらん | 2012年5月21日 (月) 00時32分
すずらん様




ありがとうございます。金環食も終わり 今日は良い天気です。
お互いに「大丈夫!」と元気づけながら やっていきましょうか。
椅子はどこでも自分の居るところにあるのかも・・。
マイチェアーをつくって 人にも差し上げて 分けて生きたいと思います。私はお医者さんではないけれど、私のお医者様はアーチストのような空気感がありますよ。職業の名前より 人の存在感が先ですかね。
投稿: アトリエトトロ | 2012年5月21日 (月) 13時45分