日曜日のアトリエ
日曜日のアトリエは静かだ。
市民美術展に出品する作品にとりかかっている。
昨年は50回記念で10月だったから、震災のショックで絵筆が止まった私には秋へ移った市展の日程変更が本当にありがたく、賢治の「星めぐりの歌」に思いを込めて描き上げることが出来た。アトリエ生徒で高校生の陸君の初出展作品が受賞したことも気持ちの晴れる出来事だった。
今年はまた従来の6月なので、今締め切り直前の時期なのだ。また彼もチャレンジするというので先日の日曜日からようやく二人で描き始めているところだ。
「季節を全部一枚の絵に描きたいの。」
私は浮かんだイメージを彼に告げる。
「はい。」 陸君はもはや「はい。」としか言いようが無かろう。
「陸君は?」
「僕はハリネズミです。」 (えっ、ハリネズミ?)
「なるほど。」
私もなんとも答えようがないから内心で感心しつつ「なるほど。」と答えた。
それからジャズの音楽をかけて3時間、二人でひたすら描いた。まるで画家のアトリエのようでなんともいい気持ちだった。
えっ? じゃあいつもはアトリエじゃないのかって? いつもは子ども達のパラダイス。教室のあとは心身ともに絵を描くパワーがゼロになっちゃうから、軽くダウンしつつひたすら休憩中なのでした。
思えば、若くて元気なときには目標もあやふやで喜怒哀楽のバランスがヘタだから妙に浮き沈みがあって、なんにもしないのにヘトヘトになったものだった。50代も過ぎるといろいろなことが有り難くてやりたいことも定まるのに、今度は身体が言うことをきかない。だから陸君がアトリエで迷い迷いチャレンジしている姿は眩しくもあり、誰からも絵を手ほどきされていない遠回りの自分と重ねて、ちょっぴり「いいね。」と思う。美術の大学へ行こうとしているので、出来ることは応援しようと思うけれど、少しだけ(あんまり美術を勉強しすぎないほうが良いかも。)と感じたりもしている。「まあ美術以外のことは、かおる先生がおしえてあげるから。」などと笑って励ましつつ、確かな人間になってほしいと願うのだった。
すべてが未知との遭遇だらけの若い時代に、なるべくたくさんの友達と話をしたり見たこともないところへ旅をしたりして発見の出来る好奇心満タンで生きられるように、小さい時分にちゃんと厳しく躾けてもらっていれば、自分で師匠をみつけることも出来る。師匠はいたるところに居てくれて、私は今でも自分の師匠に巡り会ったりすることがある。
師匠とよべるのは「だめですよ。」と言ってくれる人だ。陸君にはいい師匠がついている。というか,いい師匠になりたいものだ。
日曜日のアトリエはお互いを師匠にして、幸せの中でプレッシャーと闘いひたすら白いキャンバスに向かう空間だ。私は本当に久しぶりに何の気負いもなく穏やかな絵が描けている。
「先生、3時間ってびっくりするような速さで過ぎましたね。」陸君が筆を片付けながら残念そうに言った。3時間格闘したハリネズミの絵がうれしそうにキャンバスに生まれていた。
「餌はあげとくからね。」「はいっ。よろしくお願いします。こんど続きを描きに来ます。」
自転車の後ろ姿が颯爽と遠ざかって行った。
師匠ーーーーーーーーーーーー!!!!!!
ごぶさた すみません。
また 会いにいきます。m(_ _)m
投稿: KEN | 2012年5月25日 (金) 15時02分
師弟、いい響き。なのに、「美術以外のことならおしえてあげる。」という師がすてきだし、「餌はあげとくからね。」と言われて「はいっ。よろしくお願いします。」という弟子もすてき。
~師匠とよべるのは「だめですよ。」と言ってくれる人だ~
という言葉、私も本当にそう思います。2012年上半期共感大賞を進呈したいくらいです。
投稿: アヤドン | 2012年5月25日 (金) 15時58分
KEN さま
ご無沙汰はおたがいさま。
「ごぶさたのKEN」という方はどなたなのか どのKENさまかイマイチわかりませんが、いつも 同じところに居ます。また会いましょう。
コメントありがとうございます。また 会えるでしょう。
投稿: アトリエトトロ | 2012年5月25日 (金) 16時12分
アヤドンさま
ありがとうございます。
ヽ(´▽`)/やったーーーーーー!!!!!
上半期 共感大賞
賞の候補になるのは うれしいもんですね。
おっと・・・、また調子にのると 師匠から「調子にのったらダメですよ。」と言われる気がしてきます。もしかしたら 師匠って「気配」の中にも居られます。あー 有り難い ありがたい。(*v.v)。
投稿: アトリエトトロ | 2012年5月25日 (金) 16時19分