おかえり

　木曜の夜、大学生のM君が半年ぶりに帰って来た。

「おかえりな さい。」の再会。
高校の文化祭で忙しい後輩達が会いたい思いで集まった。
「よう!」と先輩。　「うすっ。」と後輩。
なんにも変わっていないように見えて、何かがちょっと違っていた。

前に使っていた彼用の下敷きを出しておくと、ふつうに座って
卒業前と同じ顔して作業をしている。

滞っていたアトリエの看板を出して頼んだ。




「描いてちょうだいね。」　躊躇なく「はいっ。」と返事する彼を
後輩達は頼もしそうに見つめて(先輩の仕事だ・・・)と納得。

　
手みやげは、山梨といえば「富士山まんじゅう」。
どんなにか、この場面を想像して買って来たことか。

　小さい頃からアトリエで顔を合わせていた彼らは、
なんだか兄さんが久しぶりに帰って来たような空気感で、
アトリエカレーをおいしそうに平らげて静かに愉しそうだった。

サプライズ好きのM君としては、「こんばんは。」と奇襲を
かけたかったところだと思ったけど、なにせ学園祭の初日で
ボロボロの後輩達は「遅刻していきます。」だの「休むかも。」といった
メールを朝から送って来ていたので、
「M先輩が来ます。」と誘惑のメール返信を打っておいたのだ。

「人の魅力って、動員力なんだよ。」 私がいつも言う言葉。
『あの人がいるから行きたい』と思ってもらえるような人間に
なってくれるといい。

　夜の教室は秋になると小さな別れの予感で、ちょっと切なく
なるけれど、先輩が各地のみやげ話しを持って訪れると、
なんとなく大丈夫そうな気になっている受験生達だ。
　

　
　週末の土曜日、大型の台風が来そうで初めてアトリエの教室を
「台風休み」にした。
前日の夕方「あぶないからね。」と連絡すると、
電話のお母さんの後ろから「えっ!!」という落胆の絶叫が
聞こえてちょっとうれしかった。

今年は至る所で水の被害が多すぎる。龍が怒って暴れているみたいだ。

流れる水をとどめず、身を任せてありがたく生きて行こう。

台風のあとは、いろんなものが見えてくる。
ドキドキしながら台風を感じている子ども達の無事だけを祈る九月のはじまり。

ちょっとだけ秋。　「おかえり。」のアトリエ。